それって虫歯や歯周病ではない!?
今、「原因不明」の歯や口腔周りのトラブルに悩む人が増えている
歯科医院といえば、虫歯や歯周病の痛みやトラブルを解消したり、きれいで健康的な歯並びを維持するためのケアに訪れるところという認識が一般的です。
また、歳を取れば入れ歯を作るために歯科医院に行くという人も多くなります。
長い人生で一度も歯科医院に行ったことがないという人は、まずいないでしょう。
誰もが何度かは歯科医院のお世話になっているはずです。
ところが、ここ数年、歯科医院を訪ねてくる患者さんの中には、虫歯でも歯周病でもないのにかかわらず、歯や口腔周りのトラブルに悩む人が目に見えて増えてきています。
そのトラブルは、具体的には、
●虫歯ではないのに歯が痛む
●知覚過敏(熱いものや冷たいものが歯にしみる)
●歯の詰めものや、かぶせものが何度も取れる
●入れ歯が痛くて、噛めない。合わない
などで、当人にしてみれば、いずれも不快な症状ばかりです。
そのため、何とかして症状を改善しようと歯科医院を訪ねてはみるものの一向に良くならず、結局、何軒もの歯科医院を転々としてしまう「歯科治療難民」が増えています。
一般的に歯や口腔周りの痛みやトラブルには、歯の周辺に原因がある「歯原性」のものと、そうではない「非歯原性」のものがあります。そして、歯原性の病気の代表が虫歯と歯周病です。虫歯は虫歯菌が原因となり、歯周病は歯周病菌により引き起こされ、トラブルを生じます。
では、虫歯や歯周病が原因ではないトラブルは、どうして起こるのでしょうか?
長い間、そのはっきりした理由は解明されていませんでした。
そのため、トラブルを訴えてくる患者さんに対して適切な治療を施すことができず、処置する必要のない歯を削ったり、場合によっては抜いてしまうなどという誤った処置をしてしまうケースがあり、残念ながら、それは現在でも 改善されていません。
大人の歯、中でも永久歯は一度でも削ったり、抜いたりしては、もう二度と元に戻すことはできない大切なものです。
しかし、今でも安易に歯を削ったり、抜いたりしてしまう歯科治療が少なからず行われています。
これからの歯科治療を考える上で、これは大きな問題です。
原因は「TMD(噛みしめ症候群)」にあった!
〜噛みしめが引き起こす「TMD(噛みしめ症候群)」の弊害
これまでの研究で、歯や口腔周りの原因不明のトラブルが引き起こされるメカニズムが次第に明らかになってきました。それは「噛みしめ」とそれに関連する「TMD(噛みしめ症候群)」です。
人間は普通、何らかの衝撃に耐えたり、力を入れたりする時には歯を食いしばります。
歯を食いしばる時、歯には約200kg もの大きな負荷がかかっているといわれます。
多くの人は、歯を食いしばるような状況が過ぎると、次第にリラックスして、歯を食いしばらない自然の状態を維持するようになります。
ところが、普通の時でも無意識のうちに歯を噛みしめてしまい、歯に負担をかけ続けている人が少なからずいることが分かりました。
歯は人間の体の中で最も硬い器官とはいえ、短時間ならともかく、長時間、200kg もの力がかかり続けていれば、当然のことながら、さまざまな弊害が出てきます。
例えば、歯の接触面が削れて摩耗や変形をしたり、時には歯の根元の部分にヒビが入ったりします。虫歯ではないのに歯が痛くなったり、熱いものや冷たいものがしみたりするのは、こうしたことが原因になっていると考えられます。
噛みしめの弊害は他にもまだあります。
虫歯の治療で入れたり被せたりした、インレーや被せ物 が取れやすくなったりするのもそうです。
また、噛みしめることで舌が収まるスペースが狭くなるため、舌の位置が下がって、歯の裏側に押しつけられるようになることから、口内炎になりやすくなったり、滑舌が悪くなることもあります。また、唾液の減少や味覚の異常といった現象が起きたりもします。
さらに、歯だけではなく、歯を支えている顎の骨にも力がかかり続けているため、下顎の骨が口の中に出っ張るように変形している「骨隆起」や顎を動かす時に異音がしたり、口を大きく開けられなくなってしまう「顎関節症」を発症しやすくなります。
このように、噛みしめは実に多くのトラブルの原因になっていますが、現在では、こうしたあらゆる不快な症状を総称して「TMD(噛みしめ症候群)」と呼んでいます。
TMDとは、「Temporo Mandibular Disorders」の略で、日本語では「側頭下顎部障害」、つまり、顎の関節周辺の諸症状と訳されていますが、私ども「TMD研究会」ではもっと分かりやすく「噛みしめ症候群」と呼んでいます。
「TMD(噛みしめ症候群)」が厄介なのは、基本的には、歯の噛みしめから生じる症状でありながら、逆に全身の関節などのバランスの崩れ、すなわち「体の歪み」から、噛みしめが起こることもあるということです。