「TMD(噛みしめ症候群)」は治療できる!〜さまざまな弊害から身体を守る

噛みしめが原因で起こる「TMD(噛みしめ症候群)」の治療は、原因や症状が人それぞれ異なるため、治療方法もその人に応じた、いわゆるオーダーメイドの治療が必要となります。

実際に「TMD(噛みしめ症候群)」の治療がどのように行われているかというと、まずは患者さんを観察し、簡単な触診も交えて顎関節や顎の筋肉の状況をチェックします。
そして、患者さんの体の歪みが歯や口腔にどんな影響を、どの程度与えているのかをしっかりと把握した上で、

・口腔内を清潔に保つ「口腔ケア」
・咀嚼筋を緩め、噛み合わせを調整する「口腔リハビリ」
・噛みしめによる不調和を治し、血流をよくする「口腔治療」(マウスピース)

の3つを柱とした治療へと入っていきます。

ここでは、マウスピースを使った治療法についてご説明しましょう。

その前に、なぜ噛みしめるのかを考える必要があると思います。
噛みしめるのは全身の関節などのバランスが崩れ、身体が歪んでいることにありますが、特に頭と首の位置関係はとても重要です。

頭を支えているのは上部頸椎C1、C2、C3で、特にC1は環椎、C2は軸椎といい、関節の関係にあります。
C3から下部は椎間板で支え合っています。
上部頸椎は脳から伝えられる神経情報の出入り口で、全身に影響を及ぼします。
噛みしめることで副交感神経の働きが悪くなります。
例えば、猫背の場合、頭蓋骨の位置が前に出ているため、頸椎が前に傾斜して肩が内側に入り、頭蓋骨が少し後ろに反る形になり、顎回りの筋肉や皮膚が突っ張ることで噛みしめにつながります。

これを軌道修正するのがオーダーメイドの「マウスピース」です。顎回りの筋肉を徹底的にほぐし、マウスピースを調整しながら噛みしめを解除していきます。

治療の手順は、
1.歪みを確認するための、口腔内の型取り及びレントゲン撮影
2.顎回り、頭蓋、頸部の筋触診
3.全身の姿勢のチェック
4.セルフケアの説明
5.マウスピースの作成
6.顎回り、頭蓋、頸部の筋肉の緊張をほぐすための治療及びマウスピースの調整

7.1~6を繰り返して治していく
(一気に治らない場合は徐々に治していきます。歯科治療が少ないほうが治る期間は圧倒的に短くなります)

8.もし、噛み合わせに支障をきたすようであれば、歯を削るのではなく歯にプラスチックを足しながら調整
9.噛みしめが治ったことを確認して、被せもの、入れ歯、インプラント、矯正などの確定的な治療(必要があれば)です。

さらに、3つの治療に加えて大事なのが患者さんへの指導です。

観察や触診の結果、体が歪んでいることが分かった場合、それを患者さんに伝えて意識してもらい、歪みから来る噛みしめの癖がさまざまな症状を引き起こしている事実を認識してもらいます。

そして、噛みしめ癖のある人には、日頃から舌を顎につけるようにし、歯と歯を離して生活する「ティース・アパート法」を実践するようにアドバイスします。

「ティース・アパート法」とは、唇を閉じ、奥歯を離し、舌を上顎につけ、顔の力を抜き、腰をしっかりと立て、上から糸で釣り上げられているイメージで背筋を伸ばし、肩の力を抜くマインドフルネスの一種です。

症状が軽い患者さんの中には、この指導だけでそれまで悩まされていた不快な症状がなくなってしまう人もいるほどですから、指導はとても大事です。

また、「TMD(噛みしめ症候群)」の場合、症状が全身に及ぶことも珍しくなく、その際には歯科医師だけでは対応しきれないケースも多々出てきます。その場合には整形外科医や理学療法士などとも連携の上、治療にあたります。